
マッチングアプリの滞在日数18日、そのうち5日間は完全ログアウト。実働13日間で無事退会した40代後期・アラフィフのわたしのLINEには仕事関係者以外の男性のアイコンが2つ増えた。
マッチングアプリ退会後、LINEで繋ぐ新しい縁
オバサンになってもこんなことがあるんだなと、とても不思議だ。つい数日前まで存在すら知らなかった2人のアイコンが『友だち』として縦に並んでいる。けれど前回の記事でも書いたように――
御二方ともわたしにときめいたわけではなく 笑 わたしとのメッセージの交流を楽しみにしてくださり、「もうしばらく楽しませて!」「もう少し笑っていたい」といった風でしたのでこちらも肩に力が入らず、姿勢を正すことなく、事情が事情――老いたペットの看病に尽くしたい――ということもあり、会いたいだとか電話で話したいなどの無理も仰らず、本当にラクで楽で。
――同じ業界(テレビ・マスコミ/同業他局)で働く同じ歳の男性とは、○県の○○が美味しかった。△県の△△は地球上でいちばん旨いなど、色気より食い気の話ばかりだし
すこしばかり年上の経営者の男性とは、キン肉マンと学生時代の部活の話で1時間も盛り上がる。
と・き・め・か・れ・て・い・な・い・のは楽ではあるけど、「これは正解?!」とも思う。なんせ10年間、独り身だった。約5年は異性とデートすらしていない。
できるならこんなこと言いたくなかったけれど、あまりにも久しいと「恋の始めかたって本当に忘れる」んだなと感心してしまう、自分のことなのに。
超久しぶりの異性との交流に戸惑う四十路心

ただ、楽しいなって思う。この2人のどちらかといつか恋仲になるのだろうか? と想像すると自然に笑みがこぼれる自分がいた。
無意識なのか意図的なのか、時折さらっと「いつか会う日がきたら××をまず食べさせるわ、俺がいちばん旨いと思ってるところ」だとか「可愛らしい人ですね~」などと挟まれるので身構えてしまう。※可愛い=顔ではないです、うっかりおかしたミスに対してです
老いたペットののこされた時間に、できるかぎり付き添いたい。自分の再婚活動はその次。だからマッチングアプリは退会した。
彼らはわたしの決意を尊重してくれているように思える。けれど“多少なりとも気持ちはあるんだよ、気づいてるよね?”と、時々ノックされているようにも思う。わたしの負担にならないように、カラッと明るくさりげなく。
そういうことが自然にできるのはやはり、痛みを知る、人生経験値の低くない大人の男だからだろうか。
自惚れがハズれるほど経験不足じゃない。
男心の機微に気づかないほど鈍感じゃない。
ううん、離婚して10年のブランクと加齢はわたしを鈍くしているかもしれない。自惚れ純度100かもしれない。
深く考えてないでおこう。「くるときはくる」「なるときはなる」人生っていつもそうだから。「おちるときはおちる」。いつもそうだったから。
凍てつく寒い日、占い師に会いにいく

その日は袖から出ている手の指や、ぐるぐるに巻いた大判マフラーとマスクから出ている目やおでこがかまいたちで裂けてしまうんじゃないかと心配になるほどの寒さだった。
仕事をさっさと切り上げて、時計を見ると夕方4時。ふと、強烈に頭をよぎった人がいた。「会いに行かなきゃ!」「こんなに寒いのに?」「会いに行かなきゃ!」「嫌だよ、もうお家でゆっくりしたいんだよ」――2人の自分がせめぎ合う。
電話を入れて、“彼”が接客中なら今日はやめよう。
🚹「もしもし~?」
「……こんにちは。前回は11月にお邪魔しまして」
🚹「わかります、声でわかりました。~~の方ですよね?」
「そうです。忙しいのにすみません。本日空いてますか?」
1時間後、深い緑色のクロスがかけられた小さなテーブルを挟んで彼と向き合っていた。
「努力していたら3か月ごとに手相は変わるって仰ってたでしょう? 昨年の11月から今日までわたしなりにではあるのですが、新しい挑戦を2つ3つしてみました」
占い師さんはわたしをじーっと見つめて「先にちょっとだけタロットを引いてもいいですか?」と、答えを待たずしてカードを切り始めた。
ハートに三本の剣が刺さったカードを見るなり彼は言いました。「三角関係?」
その時のわたしの顔は、マッチングアプリ内で交流した自然派顔文字男子(なにそれ)がもっとも好きな顔文字だと言っていた、
( ゚д゚)ポカーン
と、そっくりな表情をしていたと思います。そんなわたしの驚きを知ってか知らずか占い師の彼はつづけます。
🚹「でもこの三角関係はすぐに過去のものになります」
🚹「わりとすぐに決着がつくみたいです」
🚹「時間にするとそうですね、1ヶ月とかからないんじゃないかな」
カードを開いては並べ開いては並べ、まるで独り言を話しているみたい。
「1ヶ月もかからない……」
🚹「そのようです、えいっ!」
🚹「あかつきさんの気持ちが固まるようですよ」※あかつき=わたしです
🚹「えいっ!」
🚹「でも……あかつきさんの心はちょっと暗いですね」
🚹「迷って……迷ってるのかな……ん……なにか怖いですか?」
昨年の8月、この占いブースで初めて彼に会った。少なくとも5年は通っているこのビルのこの場所に彼は3年前から週に2回座っていると言っていたけど、まったく興味もそそられなかった。それなのに、その日に限ってふらりと立ち寄ってしまった。
現状を変えようと頑張ったり努力をすると、手相って3か月毎にどこかが変わってます。と、その時に彼は言っていた。だからわたしは、昨年の11月にも彼に会いにきていた。「努力のあとは出ていますか?」と。
昨年の8月と11月に「太陽(THE SUN)のカード」が「ものすごく良い出会いがある」「理想の人と出逢える」と出たあとに、「でも尻込みしている」「行動していない」と読み取れるカードが顔を出した。手相にもやはり動きがなかった――。

「今回もまた太陽が出ましたね、これで3回目ですが……今回は太陽そのものが逆向きです」「なにを迷っていますか?」「三角関係に悩んでいるのではなさそうです」「この三角関係はかなり新しそうですね」
ほおお……
すごいな……
という表情はできるだけ出さずに、「なんでそう思います?」なんて質問に質問返しをするダサさを見せてしまった。
- 再婚活をとつじょ思い立ってマッチングアプリに登録し活動してみたものの、あまりに短期間の活動で拍子抜けしている。
- ありがたく2人の男性と最終的にマッチングをして交流しているけれど、この歳でこんなわたしのもとに楽しかったり面白かったりすることが異性発信でもたされていることに戸惑いがある。
- あまりに好条件で“出来過ぎている”ような気がして、彼らをではなく、今起きている出来事そのものを信じていいのか不安がある。
――というような胸のうちをわりと赤裸々に話した。すると彼は「ではあかつきさんを護ってくれている2人がどう思っているかを見てみましょうか」
毒親から守ってくれた今は亡き人と、先代のペット。それぞれの気持ちをタロットカードで聞いてみようという。
目の前の彼以外に占い師を知らない、そっちの世界に明るくないわたしはそんなこと出来るのかしら? とちょっぴり疑いの気持ちでテーブルの上につらつらつらと並べられるカードを眺めていた。
今は亡き人の気持ちだという9枚のカードは全体的にとても明るくて、先代のペットの気持ちだというカードは7割くらいが明るかった。
「簡単に代弁しますと、“人”の方はなにも心配することないから大丈夫。そろそろ幸せになっていい時だよというようなことを思っておられるみたいです。わくわくしておられるような印象をうけます」
「ペットちゃんの方は『おかあさんの悩み相談をいっぱい聞いてきた』『だからいつも心配してきた』『いつも心配している』『これからは楽しいお話をいっぱい聞かせてくれる』というような感じでしょうか」
ほおお……
骨壺に相談してる声
ちゃんと聞こえてたんだ……
ていうか、すごいなこの人
👩「じゃ、あまり怖がったり不安がらずつかの間の三角関係を心のままに楽しんでみます。そしたら次は3か月後……」
🚹「ああっ……それなんですけど」
👩「辞めるんだ?」
🚹「さすが!!」
👩「だからわたし、今日どうしても会いにこなきゃいけない気がしたんだね。急にだった、どうしても急にここにこなきゃいけない気がしたんです」
ぽそぽそと話す、パッと見冴えないおじさんである彼は、おそらく人気の占い師ではない。隣りのブースのおばさん占い師のもとにはひっきりなしにお客さんが来ているけれど、彼は過去2回とも文庫本を読んでいたし、数時間話し込んでもなんら支障はなかった。
隣りのブースのおばさん占い師は、人生のアドバイスをしている声がよく聞こえる。パンパンパンと言い切り型。意地悪も嫌味も言わないけどハッキリとものをいう付き合いやすい姑さんって感じ。
そのせいか、幼いお子さんを連れた若いママたちから特に人気のようだった。根拠はひとつもないけれど、あのおばさんは多分、“視えはしない人”だ。
重ね積み上げてきた人生経験からくる堂々たる振る舞いと達者そうな唇が、ホンモノっぽく見える。
でも不思議と「彼」にみてもらいたかった。みてもらうなら彼だと心が決めていた。彼に一度聞いたことがある。「やっぱり霊感があるんですか?」と。
「ないです。僕は視えないし(お告げなど)聞こえもしません。ただ、感じとる能力は低くないんだと思います」
初めてわたしがここを訪れた日、なにかを感じ取ったかとたずねると「まったく」と彼は笑った。わたしも笑った。
憧れだった企業への転職を諦めきれないこと、ひと様の「念」を感じ取るのがだんだんつらくなってきたことなどから、翌月末で会社員に戻るのだという。ありがたいことに転職先の会社名と勤務地までさらさらと教えてくださった。
彼が占い師を“退職”するまであとひと月。
わたしの手相は変わっているだろうか。剣が1本抜けたハートのカードなんてものがあるのかないのか知らないけれど、迷いが抜けてすがすがしい気持ちを示すカードが並ぶだろうか。
並ぶ、といいな。
そのためには、言わなきゃいけないことがあるな。
(つづく)
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