
マッチングアプリで知り合った超・秘密主義の彼は、たった1度の電話で「別人」かのようにユルユルになった。
例えていうなら「鉄の塊」に高熱を与えたらねろねろに溶解した、といったところ。そんな彼がさらに別の顔を覗かせた――。
お家はどのあたり?

初夏にやってくるわたしの誕生日に彼と"初デート"を予定している。なぜさっさと会わないのかについては過去の記事でも書いたため割愛するけれど、
ざっくり言うと「オバサン化した見た目をある程度もとに戻すまでは会う勇気がない」ため「ダイエット他に励むので時間がほしい」とお願いをし、彼も了承してくれていた。
初電話以降のある日のLINE、彼の"熱"はまだまだ下がっていないようでたいへんご機嫌に、わたしの誕生日祝いについて様々なアイデアを出してくれていた。
「あかつきちゃんのお家の方には○○みたいなレストランってあるの?」
「検索するからちょっと待ってね」
「いいよ、俺が探すわ。お家どのあたりなの?」
「あっ。それは……それはまたいつか言います」
「ごめん。言いたくなかったら言わなくていいよ。レストランを探すために聞いただけだから。住所を知りたかったわけじゃないから、ごめんね」
き、気まずい
最寄りの駅の隣りの駅を答えるとか。だいたいの方向をさらりと言えばよかったのに、ヘンに濁してしまったせいで謝らせてしまったし手の中のスマホがじっとりと重くなった。
けれどそこは彼の年の甲なのか、話題はすぐに別を向いた。
と、この時は思っていた。
お家はどのあたり? パートⅡ

「で、最寄りの駅はどこなの?」
お昼休み中に交わしていたなにげないLINE。直前までまったく異なる話題だったのに、彼は突然ぶっこんできた。
やっぱり気にしてたんだ……。わたしが言葉を濁してから3日間、いつ言おう、いつ聞こうとタイミングを見てたんだ……。
きっとはじめは本当に純粋にレストランを探す目的で「どのあたりに暮らしているの?」とたずねたのだろうけど、わたしに濁されたことで「住まいを知りたい」とゴール変更が起きた。
秘密主義の彼は、自分の秘密に踏み込ませないために相手の敷いた境界線にも気を配っていた。けれど、たった1度の24分間の電話が彼の"タガ"をはずしかけている。
さあ、どうするわたし。
秘密主義の彼の独占欲

知り合って2ヶ月が過ぎた。彼は秘密主義ではあるけれど「人となり」は隠せていない。彼の人間性は信用に値する。
そう、「人間性」は信用できる。
「彼ね、たぶんだけど……本当は独占欲が強いと思う。あかつきの行動とか知りたいはずよ、知って安心したいはずよ」
先輩はすでに勘づいていた彼の「男」としてのそういった部分に、わたしはまるで気がついていなかった。
頭の中の容量少なめのHDDから、早送りで過去の恋愛を再生する。独占欲と執着心の強い男の言動パターン。危なかったか、怖かったか、ストーカー化しただろうか。
飼っている保護犬も、元夫も、二十代半ばの大恋愛相手も、独占欲と執着心はかなり強い。けれど別れるとなると面倒なことはとくになかった、はず。
彼からのメッセージに既読をつけてから、20分近くが経過している。わたしの出方を待っているであろう彼は、ややいき過ぎともいえる秘密主義者だ。
わたしの思う「このくらいの嘘や誤魔化しなら大丈夫だろう」は、彼には間違いなく通用しない。砂の城を踏みつけるみたいに、まだまだ脆い信用は一気にゼロになり、もう二度と築かれることはないだろう。
よし、決めた。
正直に今の気持ちを言おう。
「住まいはまだ言いたくないです」
「わかった」
「言いたくなったら言う。今は言いたくない。それ以外に他意はないわ」
「了解」
独占欲と執着心の強い男は、この程度の「NO」くらいではいそいそと引き下がらない。少し離れて様子を見て、三度、四度と果敢に攻めてくる。愛犬もそうだし(犬と同列に人間の男性を語る)。
彼の胸の中は今どんな風になっているんだろう。
なんとなくそれを知りたくて、タロットカードでも引きたくて、珈琲片手にyoutubeを開いてみた。
「引き寄せ」なのかなんなのか、検索せずとも出てきたタロット占いが目にとまった。
よし、さわりの部分だけでも聞いてから席に戻ろう。それがとんでもない大間違いだったことを、わたしはまだ知らないでいた。
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