
マッチングアプリを通じて知り合った彼の髪に初めて触れた時、その柔らかさをどうしてだか懐かしいと思った。
彼が「A」をしてこない2つの理由

大人の婚活において「登竜門」とされている2度目のデート・2度目のお誘いは、2度目の訪問チキン丸ごとを添えて――という不可解な形でさっそくやってきた。
初訪問時と同じように、寝室に大人の時間はやってきたのだけど、やはり前回と同じく「A無し・C無し・B´あり」という世間的には少々奇天烈な戯れに終わった理由を、わたしは2つ予想してみる。
ひとつはわたしがマスクを終始、装着していたからだろう。
彼の――変わり者ではあるけれど――慎重で礼儀正しい性格からみるに、Aをすっ飛ばして本能的に行為に進むなんて"非礼"を女性にはたらくことは考えられない。
そのあたりの段取りは「守らないで」と仮に頼んだとて、律儀に守るようなところがある、はず。
もうひとつは、恐らく「歯科治療の途中だから」だろう。
プラスマイナス3歳の同世代の男女を見渡せば、見事にオジサンとオバサンだ。もちろんわたしもその中にいる。「年齢相応」だけど「身綺麗にしている」「年齢相応」だけど「小奇麗にしている」「年齢相応」だけど「清潔感はある」「年齢相応」だけど「おかしなにおいがしない」これで十分。これだけで十分。というか、これがいかに難しいか。
- 歯が黄ばんでいないこと
- 歯石がついていないこと
- デンタルケアを怠らないこと
- 口臭がほぼないこと
- 虫歯がないこと
- 舌が白っぽかったり黄味がかっていないこと
- お腹・背中・肩まわりの「つかめる肉」が5cmまでなら良い
- 薄汚ないさびた茶髪にしていないこと
- 少なくても"なくても"いいから、脂っけの抜けたポッサポサの髪ではないこと
これで十分。これだけで十分。これでさえ「ハードル高い!」と嘆いた"彼"は現在、歯科治療に通いプラークチェックやホワイトニングに励み、コロナ禍を理由に足が遠のいていたパーソナルトレーニングジム通いを再開させた。
交際相手の口腔状態がわたしにとっては極めて重要で、良好でないならキスをするのも生理的に嫌だという話をした際、彼は「ハードルが高い!」と言い、そして「完璧を目指さなきゃな」と添えた。
自身でも会社を経営していて、いくつかの会社の役員をも勤めている彼が前歯など見えるところの「歯を欠損している、とは思えない」。たとえマスク生活のおかげで隠すことができたとしてもだ。
ただ年齢的に歯周ポケットが開いていたり歯茎が下がっていることも十分に考えられるので、ホワイトニングや噛み合わせの調整以外にそのあたりの治療も始まったのではないかと思われる。
彼が「A、つまりキス」をしてこない理由は、わたしがマスクをずっと着用していることと――これはこれでわたしもどうなのって話だけど
口腔状態が完璧でない自分にはそれを求める資格がないと、真剣に思っているからだろう。言動を見ていると、彼はとにかくわたしに嫌われたくないと思っておられるようだし。
彼には是非とも、菌ひとつない口腔内をこのまま目指していただきたい(笑)。ファーストキスが半年後になろうとも、わたしはまったく構わない。口腔状態最優先で最良であれ!
自分の歯でいつまでも食を味わえるのは幸せなんだよ、がんばれ! と心ひそかにエールを送る。わたしもたいがい変わり者かもしれない……と、今ふと思った。
痛みに負けルナ~男のプライドとわたしを傷つけないために

さて、そんなことよりも問題は――。
そもそもそういうタイプなのか、高揚が伴うとそうなるのか、女性にはそれが良しと誤解しているのか。うーん……痛い時があるんだよな……。伝えるか、傷つくか、どうしようか。
色気のあるうたを詠まれる歌人・佐々木あららさんの短歌を送りつけてやろうかしらと迷う。
つんつんに短く爪を切っていることは、すでになにげなく自慢され済みなので、2行目に深めの意味があることに彼は気づくだろう。
けれど「力加減」というのは、粗みじんした玉ねぎを30分で飴色にする火加減くらい難しい。pp(ピアニッシモ)がほしいわけではなく、mp(メゾピアノ)がちょうどいいわけでもない。
ppとmpのあいだにメゾメゾピアニッシモみたいな、ピアピアニッシモからのちょいメゾ挟みッシモみたいな、よく分からないさじ加減がほしい日もある。
というかなんならそっちが好みである、昔から。だからといって終始それでは物足りず、だ。要は緩急ッシモだ。
というかなんならそっちが好みである、昔から。だからといって終始それでは物足りず、だ。要は緩急ッシモだ。
学生時代にパワー系の競技をやってきたスポーツマンの彼には、この微妙な加減をつくりだすのは難しいだろうか。
我慢するべきか。いやいや、我慢はしたくない。
かといって彼のプライドを傷つけたいわけもない。長いあいだ「それが良い」「これぞ正しい」と信じてやってきたであろう彼の技能を全否定にならないよう、とはいえ改良していただけるよう、どう伝えるのがジャストでベストなんだろう。
――さらに2日後、3度目の訪問を終えて帰って行った彼にLINE。
あなたに嫌な思いをさせちゃうかもと思って言えなかったことがひとつあります。痛くて、逃げちゃってるところがあります。仮に今が「8」の力だとしたら、「2~3」くらいだと今よりもさらに夢中になれるかもしれません。※日によりけり、ムードに左右されることもあり実はすこし出血がありました。だから伝えました、これからも仲良くしたいので。
ただひたすらに謝り、詫びに詫びる彼に胸がじくじく痛んだけれど、離婚後10年、色っぽい夜と無縁に生きてきたセカンドバージンなわたしなわけで。
仮にそうじゃなかったとしても、やっぱ痛いのはつらいのよ。だって、女はとてもやわらかいので――。
仮にそうじゃなかったとしても、やっぱ痛いのはつらいのよ。だって、女はとてもやわらかいので――。
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