
今年の2月にマッチングアプリで出逢った彼は、わたしが唯一掲げた条件通りの彼だった――。
BE MY BABY

「わたしの飼っているペット2匹を、わたしと同じくらいもしくはそれ以上に慈しみ、一緒に育ててくれること」――これ一択に条件を絞り込み過ぎたせいかもしれない。
彼の執着と呼ぶにふさわしい強めの愛情は、今回もやはり斜め上に向かって飛んでいき、宇宙のかなたに舞い降りる。
*
わたしの愛する元保護犬“ビー”の、飼い主のわたしですら見たこともないパピー時代の写真を広大なネットの海から執念で探し出した彼は
「あの子の性格と見た目の特徴で絞り込んでいき、あの子を手放した元飼い主さんのすでに更新されていないブログを見つけ出しました!」
とたいへん誇らしげ。彼のビーに対する愛情はこれで止まるわけもなく更に加速していく。ノンストップ☆ストーカー、本領発揮である。笑
MAJESTIC BABY

愛犬のビーは、わたしと出会う以前にすこしばかり悲しい過去を持つ。
詳細はここでは省くけれど、人の声を怖がり、テレビのリモコンやファイヤースティックのリモコンなど、あのくらいの大きさの黒くて硬いモノに怯えて牙をむく。
詳細はここでは省くけれど、人の声を怖がり、テレビのリモコンやファイヤースティックのリモコンなど、あのくらいの大きさの黒くて硬いモノに怯えて牙をむく。
保護施設で初めて会った時から、うちに来て2ヶ月くらいのあいだは、白目には常に赤い血管が幾筋も浮いていて、心が休まることがないのか常にひりひりした空気を全身にまとっていた。
今でこそ白目は白く、眼をギラつかせることもなくなったけれど、物音にびくつき、餌を食べている時でさえ背後を異常に気にする。
わたしとフィリピン出身の家事代行のマリアさんにしか懐かなかったビーが、初対面の彼に牙をむかなかったのは奇跡としか言いようがなかった。
けれどだからといって、終始べったり甘えているかといえばそうではなく、あくまでビーの機嫌次第といったところ。
1人と1匹の変わったもの同士は、寝室で寄り添って眠ったり、散歩やドライブに連れだったり、さつまいもやチキンの胸肉を食べさせてもらったり。
かと思えば睨み合ったり、唸ったり叱られたり、はしゃいだついでに噛んじゃったり。なにかの拍子に“癇癪のスイッチ”が入るのか、飼い主であるわたしも未だに時々――本気ではないようだけれど――がぶりとやられる。
「指から血垂れてますよ」
👔「大丈夫です……」
🐕「ガウウウウウガウウウ!」
恋をとめないで

👔「俺には目標ができました」
「はい、どんなですか?」
👔「ビーに社会性を教えます」
「社会性?」
あの子に見えている小さな世界はまだまだ怖いものが多い。でもお散歩が楽しいことだと知ったように、優しい飼い主さんがいると知れたように、小さな世界は本当は、もっと楽しいことで溢れていて、仲間も多いんだってことを教えてあげたい。あんなにも毎日毎日いろんなものにビクついていたら、ストレスもすごいだろう。
ドッグランに行っても他の犬と遊びたいのに仲間にすら入ろうとしない。でもずっと着いて回っている。何度も何度も俺を振り返りながら、他の犬の輪に入りたいけど怖いようでした。あの子に社会性が備われば、今よりももっと皆に好かれて皆に愛される子になれる。人生は可愛くて楽しいと教えてあげたい。あの子は本当はとても賢くていい子だと思う。
俺はビーのこと、好きですよ。
リンク
一週間後のお昼休みだった。彼から電話がかかってきた。
「はい。どうされましたか?」
👔「すみません、ビーの写真をお客様に見せました」
「はい?」
👔「顧客に獣医さんがいらっしゃって」
「ああ、はいはい。それでなにかありましたか?」
👔「ありました! 今夜すこしお邪魔してもよいでしょうか」
「いいですよ」
この時、彼は知る由もなかった。
ビーのために良かれと思って持ち帰った情報が、わたしをいたく怒らせ、テーブルに頭をこすりつける勢いで、平謝りに平謝りを重ねることになろうとは。
もうね、愛情が偏っとんよ(笑)→[つづき]
