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元保護犬のビーにとって、この世はまだまだ怖いもので溢れている。
バスタオル、ゴミ袋、ティッシュペーパーにウエットティッシュ。“ハタハタ”するものは基本的に怖い。

テレビのリモコン、ファイヤースティックのリモコンも怖い。ブラシは苦手だし怖いし嫌い。ドライヤーなんてもちろん怖い。かたくてやや縦長のものは基本的に怖い。

シャワーの音、強い雨音、水やお湯で手足を洗われることも苦手。








男とオスの裸の付き合い

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お散歩は大好きだけど、お散歩のあとに洗面所で手足を洗われるのは苦痛。とはいえどれだけ暴れても“洗わなくてOK”とはいかないから、よけいに腹が立つみたい。

そんな愛犬ビーが、彼とお風呂に入っている。
濡れたハンカチタオルで顔を優しく拭かれ、気持ちよさそうに目を閉じて湯船に浸かっている。

はじめはシャワーだった。
飼い主であるわたしのプライベートに様々なことが起こり過ぎてトリミングに連れていく時間がつくれなかったこともあり、

👔「ビーから獣臭がする」
「わたしもそう思います」
👔「シャワー入れようか?」
「今からですか?」
👔「いえ、勉強するのに5日ください」

中型犬の洗い方をしっかり学んでからとのこと。勉強熱心なのは良いことである。



エビデンスのシャワーにうたれて

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6日後にやってきた彼は、いつもより1着分多く、2着分の着替えを持参してやってきた。ビーを洗う気満々のようだ。

ネットやYouTube、書籍を中心に詰め込み式ではあるけれど中型犬の洗い方を学んだ彼は「とはいえ、ビーにその洗い方が合うかどうかはわかりませんので」と飼い主のわたしに最終確認を求めた。

「――よって、これをこうしてこうこうこうで」
👔「エビデンスは?
「エビ、エビ……な、なんの根拠?」

不特定多数がというから ←といった風潮が大嫌いな彼は、以前にもこちらのブログで何度か書いたことがあるように、とにかく疑い深い。

信用するまで、納得ができるまで、徹底的に調べ上げなければ気が済まない性格。

取引先になりえる様々な企業の代表者の家系図をそらで描けたり(!)、その企業の製品や部品の仕入れ先の中小企業や国→工場のある地に至るまで詳しく語れるレベル。ザ・執・着・心!

そんな彼にとって、会ったこともないドッグトレーナーや数多くの獣医のネット上の意見、クチコミレビューなどは信用に値しない。だから「エビデンスは?」となる。

でもね、中型犬のビーの洗い方ごときに根拠を求められても、訳がわからんのよ(笑) 細かいことはいいから、耳だけ押さえてざぶざぶ洗っておくれよ。

「ビーにはこのオーガニックのシャンプーとコンディショナーがいいらしいの」
👔「エビデンスは?
「分かんないよ、そんなの」

👔「飼い主なのに? 動物病院で勧められたものを疑いもなく買って使うなんていうのは――ゴチャゴチャゴチャゴチャ」
「いいから先にわたしの話を聞いて。動物病院で買ってないの、以前通っててたトリミングサロンで勧められて買ったの」

👔「無言」←ムカつく(笑)
「んも~わかったわ。じゃあ次に来るときにあなたが納得するエビデンスまみれのシャンプーを買ってきてくださいな」




彼に重ねる父の姿

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エビデンスおじさんは「間違っていたら危ないから!」と浴室のドアを開けはなち、わたしを洗面所に立たせ、自身の洗い方がビーを苦しめていないかの監督を求めた。

浴室の床にどっしりと腰を下ろし、お湯や泡に濡れることをいとわない姿勢は好感度大である。

「ねぇ、それって海水パンツ?」
👔「ふつうのパンツです、濡れてもいいものを穿いてきました。着替えも持ってきていますので大丈夫です」

なるほど。

38度のお湯を張った大きな桶に腰をおろすビーの身体に、大きな手を使って優しく優しくお湯をかけながら、念入りに予洗い。

「大丈夫だからね~怖くないよ~」
笑っちゃうくらい優しくてほそい声。


――免許返納問題や実家を手放して施設に入る入りたくないうんぬんで、父に対してイライラさせられることがこのところ多いわたしは、実家のアルバムに残る1枚の写真を思い出していた。

20代半ばを過ぎたばかりの若い父と、0歳のわたしの沐浴。

父は顔のパーツこそ“笑顔のフォーム”をとっていたけれど、表情そのものは緊張からひどく強張っていて、それが愛されて望まれて産まれてきた証に思えた。



ビーにも思いが伝わるのか、目こそ時々ギラつかせていたけれど、唸ることも暴れることもなく終始おとなしく洗われるがままになっている。

ビーが水圧と音で怖がらないようにと、シャワーの水流は極めて弱い。そのせいでお湯がちょくちょく水に戻るようで、ハンドルを何度も操作しては「ちょうどいいところ」を見つけるのに彼は苦戦していた。

Mr.エビデンス、きっと愛情深い人なんだろうなあ。
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初シャワー以降、彼がわが家で汗を流すために浴室に向かうとビーはついていくようになった。一緒になって浴室へ入り、30分後、タオルドライを済ませたバサバサ頭で2匹はリビングに顔を出す。

なかなか出てこないなと思った時は、2匹でゆっくりお湯に浸かってなにやらひそひそやっている。
初対面からまもなく2ヶ月。BeeとHeのステップファミリー化計画は、まずまずといったところだろうか。

わたしはまだ知らなかった。
彼がどうしてエビデンスにこだわり、病院や専門医の意見を信じることが難しいのか。
彼の孤独だった生い立ちも。彼の強い執着心の理由も。この頃のわたしはまだ知らなかった。