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74歳の父と熟年離婚をした母が、自ら探した「自立型のサービス付き高齢者マンション」に越してからひと月が過ぎた。

地元でも悪名高き“毒母”だった母が、別人のように穏やかでよく笑い、人の悪口をまるで言わない理想のお母さんになった。

でも、それをまるっきり信じていたわけではない。“はりぼてで出来た良い母親”の油断と魂胆は、会話の端々に滲んでくるようになった――。






離婚したからこそ、父を客観的に見られるようになり、父への感謝が自然に溢れるようになったと母はよく言った。

世代的なものもあるのだろうけれど、いただける年金もそれなりに余裕があるようで「お父さんが一生懸命働いてくれてたおかげよね、今になってありがたみが分かるわ」などと言う。

昔あれだけ文句言ってたくせに。
 家庭を顧みないと喚き散らし、さみしいと言ってはわたしの親友のお宅に毎日のように長居して数時間にわたって彼女の母に愚痴をこぼし、
 それを迷惑に感じた親友と親友の家族から距離をおかれて、わたしをつらくさせたくせに。よく言うよ。よく言えるもんだよ――。



お父さんの面倒を見ないと、あんたたちが困るんだからね。

お父さんから逃げても、隠れても、役所や警察は必ずあんたたちを見つけ出し、どんなことがあってもお父さんの面倒を見させようとするからね。

お父さんに恩を返さないと、いい死に方しないよあんたたち。

父の面倒をみないだなんて一言もいってないのに、呪詛を吐くみたいに事あるごとに母は繰り返した。

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「年金分割が確定するまでは、お父さんを刺激しないで」

「年金分割の手続きが終わるまでにお父さんが“おかしくなったら”、私はこの暮らしを維持できないから。お父さんを絶対に刺激しないでね」

「お父さんに優しくしなさいよ、毎日とは言わないからお弁当をつくってもっていってあげて。あんたもお父さんの様子、見ないと心配でしょう?」

――離婚までの15年、自分はお父さんに料理もまともに作ってなかったくせに。



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「免許返納をちゃんとさせなさいよ、あんたたちが困るのよ。
 お母さんはもう離婚したからあの人がどこで何をしようがいいけど、困るのはあんたたちだから、きちんと説得しなさい。お母さんはあんたたちの将来を思って言ってるんだからね!」

と言った翌日に、

「今はお父さんを刺激しないでね。難しい話をしてお父さんを混乱させるのはやめて。年金分割の手続きが終わるまではボケられたら困るんだから、本当にやめてよ」と平気で電話をかけてくる。


ああ、この人は機嫌よくわたしを使って自分を安全地帯に置きたいだけなのだな。泥船から降りただけでは心許なく、風に乗った火の粉がぜったいに飛んでこない場所まで、確実に逃げたいのだな。

そのために、わたしは利用されている――分かってた。分かってたよ、そんなこと。


陽気に生まれ変わったように見えたのは『離婚ハイ』なだけ。相手を自分の思い通りにコントロールしようとするところは昔と同じ。

今のところはわたしが「はいはい」とリアクションよく対応しているから、機嫌がいい。わたしが思い通りに動かなくなれば、一気に牙をむくのだろう。




自分が、指定された点数分の身分証明書を持参し忘れたせいで、予定通りに年金分割の手続きが完了しなかったこと。

思い通りに進まないことによる『不機嫌のスイッチ』はこの日に入った。とはいえ、なんとしても手続きを終えなければ、“アテにしているものが手に入らない”。

それまではなんとしても不機嫌さは出すまい、見せるまいと牙を隠していた母に次の思い通りにいかない出来事がやってきた。

日本全土を巻き込んだ『auの通信障害』だ。

相手の予定など気にも留めず、長電話に持ち込んで相手のプライベートを支配するやり方を好む母にとってこんなにも苦痛なことはないはずだ。しかも5日間。沸騰寸前だろう。

そうして噛みついてきた母の、溜めこんでいた苛立ちは相当なものだった。見当違いな思い込みと一方的な言いがかり。

わたしと弟の人格否定で終わったそれは、予想していたものより遥かに酷かったけれど、これでもう思い残すことなく母親を「母だった者」として処理できる。

もちろん戸籍上は忌々しいほど親子であるから、何かあった場合は再び関わりを持たねばならないのだろうけど、それはそれ。
家族の問題に関しては、起きていないことを不安がるのはもうやめた。もう十分だ。もうたくさんだ。


毒を持った親は一生、毒を持ったまま。
毒が薄まるようなこともなければ、改心することもない。

本人は「自分はまとも、周りが異常」だと信じきっているのだから改心などするはずがない。毒は薄まるどころが、老いてなお濃くなる。

老齢に伴い理解力が下がり、勘違い、記憶違いが極端に増える。
それを指摘された時に「そうだったか、ごめん(笑)」と言える人と「自分は間違ってなどいない」と老害ぶりを発揮する人がいて、毒母は寸分の狂いもなく後者だ――。

父と母、2人が持つそれぞれの毒に染まれたら、たとえ世間からつまはじきにされようとも、わたしも弟ももっと楽に生きられたのかもしれない。

自分が間違っていることにも、おかしいことにも気づかないで生きられるのは、強いのだ。でもわたしはああはなりたくない。

最寄りのスーパーで転倒した時、通っていたジムで立ちくらみがして動けなくなった時「スタッフは誰も助けてくれなかった」と母はかつて怒り狂っていた。

母の話が仮にすべて本当だとしたら、そりゃそうだろう。

散々クレームをつけてきたスーパーと、スタッフの1人が気に入らないと恥をかかせるつもりで騒ぎ立てたことがあるジムで、母は間違いなく招かれざる超ブラック客だったはずだ。

どこぞの勇者がスマートフォンでその光景を録画→ツイッターなどで拡散してくださらなかったのが、悔しいところだ。

母にとっての最寄りのそれら施設が、わたしや弟にとって最寄りではなかったことだけが救い。

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――こんな母の毒にあてられて、自暴自棄のように彼にさよならを告げたわたしは正しくなかった
そう思えたのは、お別れをしてから2日が経ってからだった。

謝らなければ。

やり直したいとかそういうことは分からない。今までの人生、別れた相手と復縁したこともそう願ったこともないから。

ただ、今回のことは彼にはほとんど非がない。だから、許されなくても構わないから謝らなければ。