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彼との最後の夜を、思い返してみる。
その夜の彼はいつにも増してご機嫌だった。







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正確にいうとその前日の朝から彼は上機嫌だった。
 数十年ぶりにひとつ屋根の下で暮らすことになった高齢の親御さんとの生活はなかなかに大変なことも多いようで、疲れが彼の声をかすれさせる日が増えていた。

そんな彼を明るくさせたのは「犬を飼いたい」という前向きな思いだった。

わたしの愛犬ビーを可愛がるたびに、どちらかといえば猫派だと思っていた自分が「ビーと同じ犬種」の特性や飼い方をいつの間にか検索して調べるようになったことに驚いている、というようなことを彼は時々口にするようになっていた。

さらに調べていくと、犬の存在が認知症の高齢者にとって良い影響を及ぼす(アニマルセラピー等)といういくつかの論文がヒットし、エビデンス好きの彼は夜毎それらを読みふけるにとどまらず、さらに深堀している最中だという。



そんな中、ふとわたしが漏らした一言。※実際にはLINEメッセージ

「あなたが運命を感じた犬に会いに行くとき、わたしも同伴したいな。新しい小さな命にもういちど触れてみたいな」
彼はわたしのこの思いを、強く強く受けとめていた。



そうして話は翌日に飛ぶ。

翌日は既報の通り、母からの酷いSMSと電話により最悪な気分で朝を迎えた。



「マンション内に落ちてるゴミ拾いをしたり、マンションの掃き掃除をすることもあるって言ってたけど、そんなことをしても徳は積めない。親孝行がいちばん徳を積める行為なんだからもっと親の面倒をみなさいよ」と母は厭らしく笑った。

そして「犬猫をどれだけ可愛がったって、徳なんて積めない。やっぱり親孝行がいちばん。あんたは分かってない」と責めた。

「あんた、親と犬が同じ日に危篤になったらどうすんの」

「そんなの野暮な質問よ。家族に寄り添うに決まってるでしょ。わたしの家族はビーだけ。徳なんて積まなくていい。わたしはわたしの大切なものを大切にする。それだけよ」

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そこからの嵐はすさまじかった。

 保護猫や保護犬を引き取って徳を積んでいるつもりかもしれないけど、結局長生きさせず死なせているではないかという口撃にはじまり ※愛猫ニコは推定15歳で、老女とは思えぬほどぴょこぴょこと愛らしく部屋を跳ねまわっていた数時間後、眠りながら旅立った

ニコが(どういうわけだか)父の身代わりで逝った、可哀想だと泣きだし、毒親あるあるのひとつとしてあまりに有名な『育ててやった恩』を持ち出し、奇声を上げてわたしを責めたてた。

 隣人が「おとなりさんの様子がおかしい」と、フロントに緊急連絡を入れたようでサービス付き高齢者専用マンションのスタッフの方が、母のもとに駆けつけてこられた。

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母が煽るように吐き捨てた、「もう犬猫は飼わない方がいいよ。あんたは誰も幸せにできない。現に猫だって死なせたんだから」を勤務中、何度も思い出した。


そして夜がやってきて、彼の“犬に対するやわらかな思い”が詰まったLINEを受け取った。

犬を飼ったらあんなことをしたい、こんなところに連れていきたい。保護犬や乱繁殖について調べると胸が痛むのに「この子がいい、あの子がいい」と自分も命の選別をしていることに気づき、落ち込んだりもするんだ――。

彼の“犬トーク”は終わる様子がなかった。彼の生き物に対する誠実な思いを受けいれながら、返信するのは楽しかった。

ビーと同じ犬種で探しているから、ビーは兄貴分になるね。あかつきちゃんにべったりの甘えん坊のビーが、どんな風にかわるのかすごく楽しみだ。社会性も身につくだろうな。

俺に犬の“相棒”ができるだなんて、と彼は期待に胸を膨らませているようだった。そして――

あかつきちゃんももう1匹飼えば? と彼は言った。


目の前でシャッターが勢いをつけて下ろされたような錯覚に陥った。あ、わたしもうダメだ。今日はもうダメだ。眠らなきゃ、なにも考えずに眠らなければ壊れてしまう。

翌朝8時――「ニコを亡くしたばかりのわたしは、まだ新しい子を迎え入れる気にはなれません。短い間だったけど楽しかったです。もう一度人を好きになれてよかった。ありがとう、さよなら」

最後のLINEを送ってすぐに彼を「非表示」にした。もう疲れた。