
趣味で集めていた海外のアニメキャラクター。
本当に手放したくない数品を残してメルカリに第一弾として10点ほど出品したところ、原作チームのメンバーの1人だという“女性”と思しき購入者が、一切の値引き要請もなくその時点での全品をまとめて買ってくださった。
- 購入くださったお礼をコメントする
- それに対して返信コメントがつく
- 商品発送のお知らせコメントをする
- 商品到着のコメントが届く
- 改めてお礼コメントをする
- お互いに「評価」をつけて、クローズ
本来であればこれで終わるコメント欄のやり取りが、“彼女”の告白により続くことになった。
「こんなにも初期のグッズに出会えるなんて……大切に使っておられたのがよくわかります、ありがとう」
無視するわけにもいくまい。「とんでもないですー」「こちらこそですー」的なありがちな返信をしたと思う。
そこから「日本では無名のこの作品をどうして知ってるんですか?」「実は私は原作チームの1人なんです」という激白にはじまり、制作側でないと知らない裏話などをとうとうと語ってくれ、
そもそも大好きで集めていたキャラクターの制作裏話ということや、留学していた若い頃の思い出の地や時代背景が“似通っていた”ことも手伝ってコメント欄に花が咲いた。
“女性”だと思っていたこともあり安心していた部分は大いにある。
けれど押し出しの強い女性だな、海外にお暮しだったり・行き来なさっているからかなと若干失礼なことを思ったりもした。
そうして――「今日はコメント欄が閉鎖されちゃうかも、明日にも閉鎖されちゃうかも…とコメント欄をタップするたび不安になります。よかったらこちらにLINEをくださいませ、無理にとは申しませんので」
とコトが進んだ。音信不通を行ったり来たりする“心配をかけてばかりの彼”にその旨を伝えてから――義理は果たしたぞ! とLINE-IDを検索したところ
JIRO
じろう(当然、仮名です)という男性名がヒットした。
やっぱり男だったか……。
リンク
たとえ“彼”にとってはたいした意味がなくても、カタチ的にはどう見ても音信不通。それも今回がはじめてではない。
そっちがそうならこっちもちょっと心配かけてやれ、という気持ちが微塵もなかったわけではない。けれど性格的に秘密裏にコソコソするのは気が進まない。
堂々と宣言して浮気をする(?)。
正直な気持ちをいえば、日本で人気のないほぼ無名な海外アニメのキャラクターグッズ――マニアなら涎ものなのに!――を「まとめて買ってくれる購入者」はレア中のレアだから、自宅にある残り20点ほどを完売させるまでは繋がっておきたかったというのが本音の9割。
だけど、“彼女”がJIROさんと名乗る男性だと分かった今、メルカリの購入者と出品者という関係性以外で繋がるのは果たしてどうなんだろう。浮気をするつもりは毛頭ないけど……。
音信不通の解除とともに飛んできた彼の、少し痩せた姿を思い出す。
全盛期のボブサップを彷彿とさせる筋肉質の大きな身体はほんの少し縮んでいて、マスクを外した頬はほんの少しではないくらいお肉が落ちていた。
「では帰ります」とソファから立ち上がり玄関に向かう彼がふと立ち止まって、犬毛を拭うためのコロコロを手についていくわたしを振り返った。
急に来てごめん
仕事忙しいでしょうに
サプライズ訪問を繰り返し、わたしを辟易とさせていた彼が自ら初めて詫びた。心身ともに疲弊しきっていたからついつい素直な姿が出てしまったのか。
それとも忙しさを盾に――恐らく、わたしに対する甘えから――音信不通をとっていたにも関わらず小言ひとつ言わないわたしに対して本心から申し訳なく思ったのか。まあ、どちらもでしょうな。
「よし。JIROと繋がるのはペンティング!」
メルカリへの出品物が、他のレアな購入者の心を動かすことに期待を込めてJIROさんをいったん保留にすることに、した。